過去のコラム記事はこちら:2019年1月「初夢を正夢に変える事業計画」、2019年3月「新入社員の戦力化における組織文化の重要性」、2019年8月「人事考課の有効活用」、2019年11月「ストレスチェック制度の有効活用」、2020年1月「研修計画を通じた人材育成効果の高め方」、2020年4月「新任管理職に対する期待」、2020年5月「新型コロナウイルスの影響下で求められる新入社員の早期フォロー」、2020年7月「ジョブ型雇用本格導入の条件」、2020年9月「オンライン方式人材育成の普及と課題」、2020年11月「目標管理の新しいノウハウとしてのOKR」、2021年1月「デジタルトランスフォーメーション(DX)の期待と課題」、2021年3月「テレワークにおけるマネジメントの心得」、2021年6月「デジタル化におけるアート思考」

コラム

「ジョブ型雇用本格導入の条件」

PDFでご覧になりたい方はこちら

2020年7月14日

主任講師・コンサルタント

山田 豊文

 

1.テレワーク普及の前提

 新型コロナウイルス感染防止対策として多くの企業がテレワークに積極的に取り組もうとしています。6月下旬に公表された朝日新聞の新型コロナウイルス感染防止対策に関する調査結果では「テレワークの導入・拡大」に取り組みたいと回答している企業の割合は7割以上です。そしてテレワークの利点としては、通勤負担の軽減、ワークライフバランスの向上、不要な業務や会議の洗い出しを半数以上の企業が挙げています。一方、テレワークの課題として半数以上の企業が挙げている事項には、機器やシステムの不足、社内コミュニケーションの希薄化があります。
 社内コミュニケーションの希薄化を課題とする背景には、日本の企業と自治体の業務が一般的に「メンバーシップ型雇用」であることがあります。「メンバーシップ型雇用」とは、1人1人のメンバーが担当する業務を細かく定めることをせずに幅広い内容を経験させる形態です。終身雇用を前提にしてゼネラリストの養成を目指している日本の企業や自治体に適しているため、幅広く採用されています。この「メンバーシップ型雇用」では業務を進める過程で、頻繁にコミュニケーションを取り合うことが必要であるため、コミュニケーションの希薄化は業務遂行に支障を来す阻害要因になります。
 1人1人が各々、仕事する場所を定めて別々のところで離れて業務を進めるテレワークに積極的に取り組む場合は「ジョブ型雇用」が適しています。「ジョブ型雇用」とは、職務定義書又は職務規程書で業務内容を細かく定める形態です。業務内容が予め具体化されているために、頻繁なコミュケーションを必要としないことからテレワーク普及の前提として導入することが期待されています。

2.ジョブ型雇用の先行事例と導入準備

 「ジョブ型雇用」本格導入を5月末に発表した日立は先進事例といえます。日立は来年3月までに全ての職種で職務定義書を準備した上で、来年4月から在宅勤務の標準化や新規則の適用を開始する計画です。注目すべき点は「ジョブ型雇用」の本格導入までに、日立は全社的な方針に基づき約10年の期間をかけていることです。日立はグローバル人材の獲得のために日本型雇用からの脱皮を目指して、2011年から「グローバル・メジャー・プレーヤーへの転換」という旗頭の元、グループ各社の独自の人事制度を世界共通の仕組みに集約することに着手し始めました。そしてデジタル部門で「ジョブ型雇用」を先行的に導入していました。
 テレワーク継続のために「ジョブ型雇用」の導入を計画している企業には必要な準備を段階的に進めることが期待されます。日立ではデジタル部門から「ジョブ型雇用」を導入しましたが、導入する部門や業務の優先順位づけが重要です。導入の優先順位づけは業務特性の3つの分類を踏まえて行うべきです。
 分類の1つ目は定型的な業務であるルーチン型業務です。ルーチン型業務の実例には工場における組み立て業務、事務所での経理業務などがあり、決まった時期にルール通りに進める業務です。2つ目は企画立案を伴うプロジェクト型業務です。プロジェクト型業務の実例には研究所での新商品開発業務、企画部門が行う顧客向け提案作成業務があり、目的を設定して必要なアイディアを出しながら成果物を仕上げる業務です。3つ目はいきなり飛び込んでくるスポット型業務です。スポット型業務の実例には自然災害による被害の復旧業務、顧客からのクレーム対応業務があり、予期しがたい突発事項に対処するための業務です。「ジョブ型雇用」の導入のしやすさはルーチン型業務、プロジェクト型業務、スポット型業務の順番になります。「ジョブ型雇用」を円滑に導入したい企業は各部門の業務内容を把握して、ルーチン型業務の割合が高い部門を優先させるべきです。

 

3.ジョブ型雇用本格導入の効果

 「ジョブ型雇用」が注目され始めたきっかけはテレワークの普及ですが、「ジョブ型雇用」を本格導入することで、2つの効果が期待できます。1つ目は職務定義書によって業務内容が明確になることから成果が把握しやすくなること、2つ目は勤務時間を自己管理しやすくことです。結果として業務の生産性を高めやすくなります。一方、「メンバーシップ型雇用」は1人1人の担当業務の範囲が曖昧なために長時間勤務になりやすく、成果は職場やチームの単位で捉えることになりがちでした。
 「ジョブ型雇用」では職務定義書で示された業務内容の完結が重視されることから、職務定義書の出来映えがジョブ型雇用本格導入の効果を左右します。職務定義書作成の中心は人事部門になりますが、各部門を管轄する管理職による協力が必要不可欠です。
 業務特性による3つの分類別における「ジョブ型雇用」の導入のしやすさは職務定義書の準備しやすさと言い換えることができます。「ジョブ型雇用」が最も導入しやすいルーチン型業務が最も職務定義書を準備しやすく、人事部門中心に準備することが可能です。一方、難易度が高いプロジェクト型業務とスポット型業務、特に売上や利益に結びつくプロジェクト型業務の職務定義書は管理職の積極的な協力が期待されます。その理由はルーチン型業務とは異なりプロジェクト型業務は、業種や業界の固有の要素を取り入れることが必要になるためです。部門横断的な大型プロジェクトを展開している企業では、プロジェクトリーダー格の管理職の協力も欠かせません。
 「ジョブ型雇用」を本格導入して効果を生み出すには各部門の管理職を巻き込みながら組織全体で取り組むべきです。トップマネジメントを司る経営者の方針に基づき、ライン業務を管轄する管理職が積極的に関与して、スタッフとしての人事部門が取りまとめる、つまりトップとラインとスタッフによる三位一体で取り組むことで「ジョブ型雇用」本格導入の効果を高めることができます。

 

以上

■コラム「ジョブ型雇用本格導入の条件」