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コラム
「オンライン方式人材育成の普及と課題」
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2020年9月11日
主任講師・コンサルタント
山田 豊文
1.増加しているオンライン方式での研修とセミナー
オンライン方式での研修とセミナーが増加しています。今年の2月以降、新型コロナウイルス感染防止策として密閉、密集、密接を避けるために、従来型の対面による研修とセミナーが軒並み延期や中止になっていました。しかし企業や地方自治体の人材育成に対するニーズは陰ることがなかったため、緊急事態宣言が解除されてからは研修とセミナーが少しずつ再開されています。再開された研修とセミナーの多くがオンライン方式で行われています。
オンライン方式での研修とセミナーはZOOMミーティング(以下、ZOOMと略記)というツールが使うことが多く、このツールの使用実績が昨年12月時点の1千万人から今年4月時点では3億人と30倍以上に増えています。ZOOMはアメリカのサンノゼに本社を置くズームビデオコミュニケーションズが開発したクラウドコンピューティングを活用したツールです。オンライン電話として使われているSkypeよりもZOOMの方が打ち合わせ、研修、セミナー、勉強会などに適していることから3人以上が集まる様々な場面で幅広く使われています。
ZOOMの普及に伴ってオンライン方式での研修やセミナーが増加していますが、緊急事態宣言解除後も新型コロナウイルスの感染が沈静化していない以上、今後も増加し続けることが予想されます。
2.オンライン方式の長所と短所
オンライン方式の研修やセミナーが増加している状況下において、長所と短所が明らかになってきました。長所は3つです。まず1つ目の長所は講師と1人1人の受講者が物理的に十分な距離を確保すること、別の場所にいることができるため、新型コロナウイルスの感染を防止できることです。2つ目は移動負担の軽減です。対面型とは異なり、1つの場所に全員が集まる必要が無いため、時間と費用の両面での移動負担を軽くすることができます。3つ目は受講者が参加しやすくなることです。移動負担の軽減は、受講者の日常業務への影響も小さくすることができるために参加を申し込みしやすくなります。
一方、短所として3つのことが考えられます。1つ目の短所は受講者人数の制約です。研修とセミナーでは担当講師が受講者の反応を確認しながら進めることが必要不可欠です。対面方式であれば1人の講師で20人以上の受講者の反応を確認しながら進行させることができますが、オンライン方式では10人程度に受講者を絞り込むことになります。
2つ目は質疑応答の制約です。対面方式に比べて、オンライン方式は担当講師と受講者による質疑応答が行いにくくなります。対面方式では同じ会場に講師と受講者が存在しているため、休憩時間を含めて気軽に質問が行いやすい環境が整っています。一方、質問をしにくいオンライン方式では、担当講師はグループ討議などの演習の場面を含めて質問を積極的に引き出しながら進めていくことが必要です。
3つ目は受講者の疲れやすさです。対面方式と異なり、パソコン画面を見続けることから疲れやすく、集中力が続きにくい傾向が確認されています。オンライン方式では担当講師が、例えば40分に1回などの頻度で小刻みに休憩を取りながら進めていくことが必要です。
3.オンライン方式の課題と効果の高め方
オンライン方式での研修とセミナーを一過性のブームでなく、幅広く普及させていく上での課題は、対面方式との比較における短所を克服することです。短所克服による課題解決は、研修やセミナーの主催者ではなく、受講者の立場を重視すべきです。短所の1つ目である受講者人数の制約は、主催者の立場ではマイナス要因になりますが、受講者の立場ではマイナス要因にはなりません。3つ目の短所である受講者の疲れやすさは、既に記述した通り、小刻みに休憩を確保することで対応可能です。
結果として、最優先で解決すべき課題は質問の行いにくさになります。質疑応答には内容の理解を促して、研修やセミナー実施後に業務での実践意欲を高める効果があるため、活発に行うべきです。具体的な方法の1つとして、質疑応答の時間を研修やセミナーと切り離して、受講者と担当講師による個別面談を設定することがあります。個別面談は移動負担が軽いオンライン方式の長所を活かす取り組みであるため、積極的に設定することが期待されます。
オンライン方式の個別面談は、質疑応答の範囲を研修やセミナーの内容に限定することなく、日常業務の進め方、受講者本人のキャリア開発なども幅広く取り上げることが考えられます。幅広い内容を網羅する総合的な指導や支援はメンタリングと呼ばれます。「オンライン方式のメンタリング」は最初、全ての受講者を対象に設定して、2回目以降は受講者の希望に基づき設定していくべきです。「オンライン方式のメンタリング」を研修やセミナーと組み合わせることが、オンライン方式の人材育成を積極的に普及させ、その効果を高める上での鍵を握っています。
以上