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コラム
「デジタルトランスフォーメーション(DX)の期待と課題」
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2021年1月19日
主任講師・コンサルタント
山田 豊文
高まるデジタルトランスフォーメーションに対する期待
デジタルトランスフォーメーションに対する期待が高まっています。IT(情報技術)という言葉よりも広い意味合いを持つデジタル技術を使って企業や組織を変革していくための取り組みがデジタルトランスフォーメーションであり、多くの場面で略称としてのDXという表記が使われています。今年は多くの企業でDXのためのプロジェクトが立ち上げられることが想定されます。数年前からCIO(情報部門担当取締役)という言葉に変わって、CDO(デジタル部門担当取締役)という言葉が使われ始めていますが、昨年夏に日本政府がデジタル庁を設立することを公表したこともDXの期待に拍車を掛けています。
DXは2004年にスウェーデンにあるウメオ大学のストルターマン教授が使い始めた言葉です。デジタル技術を浸透させることで企業活動のみならず、人々の生活を様々な面で望ましい方向に変化させることが目的とされています。DXは3つの段階で進めていきます。1つ目の段階はデジタイゼーションと呼ばれており、データをデジタル化する段階です。この段階は殆どの企業や組織で、かなり取り組みが進んでいるはずです。2つ目の段階がデジタライゼーションです。この段階は業務全体をデジタル化することであり、多くの企業や組織は業務全体ではなく一部をデジタル化して状態にとどまっているはずです。そして3つ目の段階がDXそのものであり、従来には無かった事業上の付加価値、例えば新規事業の立ち上げまで行えている状態です。
バズワードの教訓
3つ目の段階としてのDXに取り組んで成果を上げるには、注意すべきことがあります。ビジネスにおいて、これまでにいくつかのバズワードがありました。バズワードとは一時的に注目されてブームになるものの、大きな成果を上げることなく、いつしか忘れられていく言葉のことです。その具体例の1つにBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)があります。BPRとは1990年代のバズワードです。バブル崩壊後に業績が低迷していた日本企業を救うことが期待されていました。1993年に日本経済新聞社から発行された「リエンジニアリング革命」(マイケル・ハマーとジェイムズ・チャンピーの共著)がBPRブームの火付け役になりました。BPRとは業務プロセスを改革していくための手法であり、根本的、抜本的、劇的、プロセスの4つがキーワードであるという触れ込みでした。トヨタを始めとする日本企業が得意としてきた業務改善とは異なり、大きな成果が期待できるとも宣伝されていました。
しかし、その後の経緯をたどるとドイツのSAP社などが開発したERP(Enterprise Resource Planning)という基幹業務システムを導入して、企業内の情報システムの利便性を高めた事例が数多くできた程度でブームが終わってしまった感がします。
そのため、今回のDXにおいてはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のツールを導入して、単純作業の一部を自動化することで終わってしまう事例を数多く生み出すことが懸念されます。
DXで成果を上げるための条件
DXは経営改革の手法です。経営改革の手法を導入するには実現すべき状態、つまり導入の目的を設定すべきです。DXを導入するには、新規事業の創出を最終目的とすること、そのために業務全体のデジテル化により全事業部での組織横断的に生産性を向上させ、新規事業に必要な経営資源を捻出することなどが考えられます。こうした経営改革に結びつく導入の目的や基本的な進め方を設定することが必要不可欠であり、そのことがDXで成果を上げることに結びつきます。同業他社との横並び主義から競合先が取り組んでいるから、またマスコミが話題にしているから導入するのは本末転倒です。
導入の目的を明確にすること、基本的な進め方を踏まえて達成時期も定めることが期待されます。そのためには全社的な最優先課題としてDXを位置づけるべきであり、社長などのトップマネジメントがDXの責任者となりリーダーシップを発揮することが条件になります。そして業務遂行の鍵を握る第一線の管理職を巻き込みながら、スタッフ部門が第一線のメンバーを支援すべきです。スタッフ部門による支援は事務局的な役割が期待されます。自社のスタッフ部門の支援能力に不安がある場合は、経営改革の実績を持っている外部の専門家の力を借りることも考えられます。
トップマネジメントのリーダーシップのもと、全社一丸となって取り組んでこそ、DXの成果を上げることができます。もし導入の目的が曖昧な状態でDXに取り組もうとしている場合は一度、立ち止まり、成果を上がるための条件を整えるべきです。
以上