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コラム
「新卒の育成による職場定着」
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2024年5月31日
主任講師・コンサルタント
山田 豊文
◆Z世代の特徴
企業では新卒社員と先輩社員の世代が異なることによる価値観の相違が注目されてきています。過去には1980年前半の新卒社員が「新人類」と呼ばれました。当時の新卒社員は団塊の世代より覇気が無く、主体性に欠ける印象があったため「指示待ち族」とも言われました。一般的に各世代は生まれ育った時代背景から影響を受けるため、異なる価値観を持っています。
世代の区分や呼称は日本と欧米で異なります。日本では1965年から1969年生まれをバブル世代、1970年から1980年中頃まで生まれを就職氷河期世代と呼んでいます。この就職氷河期世代には団塊ジュニア世代も含まれています。1987年から2000年代生まれをゆとり世代、またはさとり世代を呼んでいます。
一方、欧米では1965年から1980年生まれのX世代、1980年から1995年頃までのY世代、そして1996年以降のZ世代が使われています。
Z世代は日本でも使われています。Z世代はデジタルネイティブとも呼ばれていて、ソーシャルネットワークサービスを小さい頃から当たり前に使っている世代です。しかし固定電話の使い方には不慣れであるという面も持っています。そのため新卒社員を育成する過程では、従来には無かったような配慮が必要になっています。
◆転職志向の強さ
新卒社員に関する懸念すべき複数のデータがあります。1つ目は今年4月下旬に東京商工会議所が公表したデータです。東京商工会議所は今年の新卒社員を対象に意識調査を実施して、その結果「機会があれば転職したい」という回答が26.4%となりました。今年の26.4%という結果は調査を開始した1998年以来、最も高くなっています。一方で「定年まで働きたい」という回答は21.1%と調査開始後の最低であり、長期勤続志向が低いことが確認できます。
2つ目は就職活動情報サイトを運営しているキャリタスが今年2月に実施した調査結果です。キャリタスの調査は昨年の春に入社した新卒社員が対象であり、調査結果から43%が転職活動中または転職を検討していることが確認されています。
こうした新卒社員の転職志向が強い理由は、リクルートマネジメントソリューションズが昨年実施した調査結果から確認できます。「仕事にやりがい、意義を感じない」が27%、「自分のやりたい仕事ができない」が13%という結果から、担当業務そのものの影響が確認できます。人手不足の傾向から新卒社員の採用に多くの時間と費用を割いていることから、新卒社員の転職を防ぎ、職場定着を促すことが重要です。そのためには新卒社員が担当する業務を適切に選定することが必要です。
◆職場定着の条件
新卒社員が担当業務のやりがいや意義を感じること、やりたい業務を担当できることは新卒社員の育成に結びつきます。新卒社員の育成を職場定着に結びつけるには、育成機会を提供できるように担当業務を選定することが重要です。新卒社員の担当業務を重視している事例が確認されています。三菱ケミカルグループは2023年の採用活動を通じて内定を提示した段階で職種、配属先、勤務地を伝達しています。そして内定式において入社動機を改めて書かせる研修を実施しました。
新卒社員の育成による職場定着を実現するために、様々な試行錯誤が行われることが想定されます。試行錯誤の対象にはインターンシップとジョブ型雇用が含まれることが考えられます。インターンシップで自社の業務を体験してもらうことが、入社後の適切な担当業務を選定する上での材料になります。またジョブ型雇用を新卒社員に適用することで入社前の段階で担当業務を明確にすることが可能になります。そしてインターンシップとジョブ型雇用による新卒社員の担当業務の選定には人事部門と現業部門の協力が必要です。協力の前提は、新卒社員の職場定着の意義を共有することにあります。新卒社員の職場定着を実現するために、人事部門と現業部門の協力による育成が期待されます。
以上