過去のコラム記事はこちら:
2024年11月「採用ブランドと人的資本経営」、2024年9月「人事部門と現業部門管理職の連携」、024年8月「即戦力人材の採用と定着」、2024年5月「新卒の育成による職場定着」、2024年4月「インターンシップとリクルーターの活用」、2024年2月「新卒と中途採用の共通点と違い」、「2023年12月「リスキリングの意義と組織体制」、2023年10月「人的資本の経営上の位置づけ」、2023年8月「デジタル化に必要な人材」、2023年6月「ジョブ型雇用の本質と効果」、2023年4月「インフレにおけるブランドの重要性」、2023年1月「バランススコアカード30年の貢献と課題」、「2022年9月「データサイエンティストに対する期待と課題」、「2022年7月「人的資本の開示による企業価値向上」、2022年4月「組織体制変更による成長のきっかけづくり」、2022年1月「IT人材の転職とデジタル化の成否」、2021年9月「採用権と役割分担」、2021年6月「デジタル化におけるアート思考」、2021年3月「テレワークにおけるマネジメントの心得」、2021年1月「デジタルトランスフォーメーション(DX)の期待と課題」、2020年11月「目標管理の新しいノウハウとしてのOKR」、2020年9月「オンライン方式人材育成の普及と課題」、2020年7月「ジョブ型雇用本格導入の条件」、2020年5月「新型コロナウイルスの影響下で求められる新入社員の早期フォロー」、2020年4月「新任管理職に対する期待」、2020年1月「研修計画を通じた人材育成効果の高め方」、2019年11月「ストレスチェック制度の有効活用」、2019年8月「人事考課の有効活用」、2019年3月「新入社員の戦力化における組織文化の重要性」、2019年1月「初夢を正夢に変える事業計画
コラム
「人的資本経営における人材育成」
PDFでご覧になりたい方はこちら
2024年12月23日
主任講師・コンサルタント
山田 豊文
◆人的資本経営コンソーシアム
2022年が人的資本経営元年と言われていますが、経済産業省は2022年8月に人的資本経営コンソーシアムを立ち上げました。コンソーシアムを直訳すると共同事業体になります。事業という視点に結びつきますが、人的資本経営コンソーシアムの特徴に人的資本経営を通じて目指すべき変革の方向性を示していることがあります。変革の方向性は6です。1つ目は人材マネジメントの目的として、投資効果の見える化を目指していることです。2つ目にアクションを通じて持続的な企業価値の向上を目指しています。3つ目にイニシアティブを発揮するために経営陣による戦略との紐付けを目指しています。4つ目に投資家や従業員に対する積極的な発信と対話を目指しています。5つ目に個人と組織の関係において、お互いに選び合って共に成長することを目指しています。6つ目に雇用関係において、専門性を土台にした多様でオープンなコミュニティを目指しています。
人的資本コンソーシアムでは会員企業を募っていますが、既に500社を超える企業が会員になっています。そしてサッポロホールディングスなど20社以上の会員企業による好ましい取り組み事例がインターネット上で公開されています。
◆中堅企業への普及
人的資本経営コンソーシアムの会員は全て大手企業です。しかし人的資本経営が重要なのは大手企業だけではありません。人的資本経営の取り組みは社外に開示して、人材確保などに結びついてこそ意味がありますが、代表的な開示項目の1つに女性管理職比率があります。
11月下旬に厚生労働省は女性管理職比率などを中堅企業に公表することを義務付ける方針を示しました。対象企業を従業員101人以上としています。結果として公表が必要となる企業数は5万社以上になると試算されています。女性管理職比率の公表は女性活躍を促進させる意図があります。女性活躍においては管理職比率に加えて男女の賃金格差、女性の健康課題を行動計画に盛り込むことの公表を義務付けようとしています。さらに厚生労働省はハラスメントの防止も重視しています。具体的にはカスタマーハラスメント対策、就職活動におけるセクシャルハラスメントの防止、自爆営業をパワーハラスメント防止に位置づけることの3つを義務付けようとしています。
厚生労働省による公表の義務付けは人材を大切にする意図があり、人的資本経営の推進にプラスの影響を及ぼすことが期待されます。そして女性活躍とハラスメントの防止は現業部門の管理職の貢献があってこそ実現できます。
◆人材育成の方向性
現業部門の管理職には様々な役割が期待されますが、その中には人材育成があります。人材育成は人的資本経営において重要であり、株式公開企業が有価証券報告書において開示すべき項目の1つに人材育成方針があります。管理職の役割として人材育成が期待されるため、管理職の育成は人材育成方針における優先事項と捉えることができます。
アメリカなどの欧米では管理職育成の基本はエリート教育です。素質を持った人材を選別した上で教育していくことがエリート教育です。一方、欧米とは異なり年功序列の傾向が強い日本では、ボス教育が主流です。ボス教育とは、管理職昇格以前の時点で社内の先輩である管理職の立ち振る舞いを学習して、昇格後に管理職の役割を果たすことです。ボス教育の由来は猿の集団にあります。猿の集団でボス猿が役割を果たす過程に似ていることから、ボス教育と呼ばれています。
現在のように経営を取り巻く環境の変化が速く、かつ変化の幅が大きい状況下では、先輩から学ぶことを前提にしたボス教育を見直すことが必要です。見直しを通じて、企業全体で組織的に管理職を育成すべきであり、その取り組みを人的資本経営において適切に位置づけることが期待されます。
以上