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コラム

「テレワークにおけるマネジメントの心得」

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2021年3月4日

主任講師・コンサルタント

山田 豊文

◆テレワークにおける監視ツールの是非

 感染症の拡大に伴って、昨年から多くの職場でテレワークが行われています。テレワークの「テレ」には「離れた」という意味があり、同じ職場空間にメンバー全員が集まるのではなく、自宅などの別々の場所で業務を進めることをテレワークと呼び、在宅勤務よりも広義の言葉として使われています。1つの職場で顔を合わせて仕事をしていないために1人1人が時間を有効に使っているかを懸念している企業や組織が多く、そのため監視ツールの導入が拡大しています。
 代表的な監視ツールにはNECの「働き方見える化サービスプラス」、パーソルプロセス&テクノロジーの「MITERAS仕事可視化」などがあり、マイクロソフトの「オフィス365」におけるメールなどの履歴を生産性スコアとして数値化する機能も監視ツールとして使われています。監視ツールの主な機能はパソコンの利用状況を把握することによって、1人1人の勤務状況を把握することにあります。注意すべき点は監視ツールの導入には否定的な意見があることです。ヨーロッパでは「オフィス365」の生産性スコアはプライバシーの侵害であるとして批判されています。
 またテレワークにおける働き方を逐一、把握しないといけないようなメンバーばかり揃っている組織は本来、健全ではありません。1人1人が主体的に業務を進めることができてこそ、組織は機能を発揮して生産性も高まるはずです。

◆問われる管理職の力量

 1人1人のメンバーが主体的に業務を進め、時間を有効に使っていることが前提にできれば監視ツールは不要になります。監視ツールを不要にすることができる前提を組織に浸透させるには管理職によるマネジメントのあり方が重要です。
 テレワークの拡大に伴って、日本国内の慣行であるメンバーシップ型雇用は不適切であり、欧米型のジョブ型雇用に切り替えるべきであるという意見があります。この意見の根拠には日立や富士通といった日本を代表する企業がジョブ型雇用への切り替えを表明していることがあります。しかし雇用制度を切り替えるだけで主体的な業務の進め方や時間の有効活用が自動的に実現するものではありません。管理職による適切なマネジメントがあってこそ主体的な業務の進め方や時間の有効活用が実現されるはずです。
 国際大学の伊丹敬之学長は著書「日本企業の復活力」で、昨年からの感染症拡大で日本の管理職の力量不足が浮き彫りになったと記述しています。記述内容は2点に要約できます。1つ目は感染症拡大に伴って多くの企業にテレワークが導入された結果、業務上のコミュニケーションの不備が目立っていること。2つ目は管理職による不明確な指示などの力量不足が表面化したと解釈すべきであること。そして伊丹学長は日本企業の管理職を鍛え直す必要性についても記述しています。

◆5W3Hの再点検

 日本企業の管理職の力量を高める上での最も重要な課題は業務上のコミュニケーションと捉えるべきです。今後もテレワークなどのリモート環境で業務を進めることが想定されるためです。管理職が業務における指示などを的確に伝達するには5W3Hを再点検することが期待されます。5つのWはWHO(誰に)、WHAT(何を)、WHEN(いつ)、WHERE(どこで)、WHY(なぜ)であり、3つのHはHOW(いかに、方法)、HOW MUCH(どの位、分量)、HOW MANY(頻度)です。
 リモート環境では3つのHが重要です。HOWはメール、あるいはズームなどの対話用ツールを使うことが前提になります。メールでは文章表現力が問われますが、ビジネスにおける基礎能力であり、管理職昇格以前に習熟すべき事項です。対話用ツールでは声の大きさや話すスピードに注意すべきですが、慣れることで解決できます。
 HOW MUCH(分量)とHOW MANY(頻度)はメンバー別の対応が必要であり、リモート環境でのマネジメントの重要事項です。対話の時間などの分量はテレワークの環境下でメンバーとのコミュニケーションに十分な時間を確保することで対応できます。またメンバー別の適切なコミュニケーション頻度を把握した上で業務における指示を行うことは、管理職の基本的な役割の1つです。管理職は5W3Hを再点検してテレワークにおけるマネジメントの質を高めてもらいたいものです。

                                                                        以上

■コラム「テレワークにおけるマネジメントの心得」