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コラム

「ジョブ型雇用の本質と効果」

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2023年6月2日

主任講師・コンサルタント

山田 豊文

◆ジョブ型雇用の注目度

 ジョブ型雇用は2020年から注目度が高まっていますが、きっかけは感染症対策としてテレワークが普及し始めたことです。テレワークでは職場にメンバーが集まるのではなく、メンバー1人1人が別々の場所で離れて業務を進めていきます。テレワークのためにはメンバー別に担当する業務を明確に切り分けることが必要です。日本の多くの企業と組織が採用しているメンバーシップ型雇用では、1人1人の業務内容を事前に明確に決めるのではなく、業務を進めていく過程で、職場のメンバーが話し合いながら担当分担を決めていくことを前提にしています。そのためメンバーシップ型雇用ではテレワークを円滑に進めることが難しくなります。結果的にテレワークの導入準備としてジョブ型雇用の必要性が認識されて、ジョブ型雇用を導入する企業が増えることが予想されました。
 しかし昨年9月に株式会社クロス・マーケティングが実施した調査結果ではジョブ型雇用を導入している企業の割合は36%でした。この調査は企業の人事担当者を対象に行われ、回答した企業数は200社でした。回答企業におけるジョブ型雇用の導入は、まだ限定的であり、60%以上の企業では従来から慣れ親しんできていますメンバーシップ型雇用を継続していることが確認できます。

◆ジョブ型雇用の本質

 自社または自らの組織にとってのジョブ型雇用の必要性は本質を理解した上で判断すべきです。ジョブ型雇用の本質は業務を起点とする制度であることです。業務を改革することを目的にバランススコアカードを導入することがあります。バランススコアカードによって、必要な業務を明確にすることは人材育成に加えて、顧客満足度の向上や財務の改善に結びつけることができます。顧客満足度の向上、財務の改善といった目指すべき効果を含めて、ジョブ型雇用の必要性を判断すべきです。
ジョブ型雇用の本質と必要性を理解するには誤解を解消することも必要です。ジョブ型雇用は中小規模の企業や組織には必要が無いという誤解があります。この誤解の背景にはジョブ型雇用の実例として日立や富士通などの大企業が紹介されていることがあります。ジョブ型雇用によって顧客満足度の向上や財務の改善を目指すことは、企業や組織の規模とは関係がありません。
 ジョブ型雇用はチームワークを阻害するという誤解もあります。ジョブ型雇用で担当業務を明確にすること、自分の担当業務のみに専念することでチームワークに悪影響が発生することが懸念されます。この誤解はジョブ型雇用が普及している欧米企業の実態を確認することで解消できます。欧米のジョブ型雇用は1人1人の担当業務を事細かに決めるのではなく期待される役割を明確にしています。そのため役割を果たす過程での具体的な業務には一定の柔軟性を持たせることができます。そしてチームワークを発揮しつつ業務を進めることが可能になります。

◆ジョブ型雇用の効果

 ジョブ型雇用による効果には顧客満足度の向上や財務の改善があります。さらに必要な業務内容を明確にすることによって、人材のプロ意識を高めることが期待できます。ラグビーのオーストラリア代表チームヘッドコーチである名将エディ・ジョーンズは著書において「プロの条件は結果に責任を持つこと」と記述しています。ジョブ型雇用によって担当業務が明確になり、そして顧客満足度の向上や財務の改善などと結びつくことでプロ意識を醸成しやすくなります。
 ジョブ型雇用の効果を生み出すためには、人事部門と第一線現業部門の役割を見直すこと、現業部門の役割を拡大することが必要です。ジョブ型雇用のために業務内容を明確する場合、一般的には職務記述書としてまとめられます。職務記述書を作成するには、現業の業務内容に熟知していることが必要不可欠です。人事部門ではなく、現業部門の管理職が中心になって業務内容を明確にすることになります。そして必要な業務内容を担当する適切な人材の採用、採用後の早期戦力化や職場定着でも現業部門の管理職が中心になることが期待されます。そのためジョブ型雇用を導入するには、現業部門が人材の採用から育成において中心となることが必要です。
 今後、多くの企業が現業部門の管理職の役割を拡大することによって、ジョブ型雇用を導入すること、そして顧客満足度の向上、財務の改善、プロ意識の醸成といった効果を実現することが期待されます。

以上

■コラム「ジョブ型雇用の本質と効果」